司法書士試験の学習を進める上で、誰もが直面する大きな壁がいくつかあります。私自身も受験・実務の双方を経験してきた立場から見て、特に合否に影響が大きい科目とされるのが不動産登記法です。
この科目に苦手意識を持ち、学習が進まないという方は少なくありません。
しかし、その「苦手」の原因さえ理解し、適切な対処法を実行すれば、必ず得意科目に変えられます。この記事では、不動産登記法がなぜ難しく感じるのか、その具体的な原因を深掘りし、さらに不動産登記法を得意にするための具体的な5つの方法について、詳しくお話ししていきます。
これから不動産登記法を学習する方、現在伸び悩んでいる方にとって、学習の方向性を定めるヒントになりましたら幸いです。
司法書士試験の合否を分ける二つの「山場」
不動産登記法が試験の一つの山場になります。山場というのは、それを乗り越えられるかどうかで司法書士試験に合格できるかどうかが決まる、合否に大きく影響する科目、それが山場ということです。
山場が大きく二つありまして、この「不動産登記法」とあともう一つは「会社法・商業登記法」。ここでは会社法・商業登記法ではなく、もう一つ先にくる山ですね、不動産登記法についてお話をしていきたいと思います。
まず一つ目として「苦手な人が多い理由」。そして二つ目に「得意になる方法」。原因を知らないと対処法を考えることできませんから、なぜ苦手な人が多いのか、その理由もしっかり押さえておきます。
その上で、原因ごとの対処法を示し、得意にする具体策へと進みます。
苦手な人が多い二つの原因
不動産登記法が苦手となる理由は、主に以下二つあります。
馴染みがない
まず「不動産登記に馴染みがあるという方はあまりいません」。
不動産業界で働いているとか、あと司法書士事務所で勤務している、そういった方は別ですが、それは全体から見ればごく一部。
不動産登記と関係してくる、不動産の取引をするということは、人生で一回から三回ぐらいかなというところなので、中々関係しない、ということが言えますね。
では、賃貸借契約っていうのもありますが、こちらはどうでしょう。関係しそうですが、賃貸借契約をしても賃借権は登記を要しないのが一般的です(民法の学習事項)。賃借権については設定者に登記する義務がありませんので、賃貸借契約をしても普通、不動産登記とは関係ありません。
ということから、不動産登記と関係してくるというのは、マイホームを購入するとか売却するとか、あと親から不動産を相続するとか、大体普通の人ってそれぐらいなんです。
そういう人生のライフイベント、一大イベント、それが起きないとなかなか不動産登記と関係してきませんので、人によっては今まで一回も不動産登記したことない、不動産登記と絡んだことないという人が多いと思います。
つまり、不動産登記で出てくる用語とか全然馴染みないんです。例えば「登記識別情報」という言葉があるんですけれども、もちろん学習経験のある方はイメージできると思うんですが、不動産登記を学習したことがない、あるいは今初めて不動産登記を学習している方にとっては「それって日本語ですか?」、「今まで聞いたことないんですけど...」、といった状態になってしまうと思います。
登記識別情報だけではなくて他にもいっぱいありまして、「登記原因証明情報」とか「本人確認情報」とか、普通に生活しているとなかなか聞かない用語、それがいっぱい出てきます。
なので最初はある意味、外国語を学習しているに近い、もちろん基本的に日本語で書いてるんですけど、用語が外国語のように感じる。そうなってしまうのが不動産登記法になります。
私自身も、受験生時代は『登記識別情報』が自然に出てくるまで数週間要しました。
そんなにと思うかもしれないんですけど、最初勉強する時ってそんなもんなんです。初めて勉強する人にとっては、登記識別情報とすんなり出てくるようになるまで数週間や一ヶ月ぐらいかかる、それが通常だと思ってください。
なので最初の方、全然用語に馴染みがない、なかなか用語が出てこない、それは当たり前だと思ってください。
全体で一つの分野
二つ目の原因は全体で一つの分野ということ。
民法と比較してください。民法というのは基本的に分野ごとになります。試験問題も分野ごとに出てきます。
例えば総則で言うと制限行為能力者、代理、時効とかそういう分野があります。分野ごとに学習して、試験の問題も基本的に制限行為能力者の分野を学習したら制限行為能力者の過去問は解ける、代理の分野を学習したら代理の問題はほとんど解ける、そういう形になっております。つまり分野ごとに出るということなんですね。
不動産登記法はそこが変わってくるんです。不動産登記法の過去問の多くが、以下のような感じです:
- アの根拠は一のテキストの50ページにある
- イの根拠は一のテキストの400ページにある
- ウの根拠は二のテキストの10ページにある
- エの根拠は二のテキストの250ページにある
- オの根拠は二のテキストの400ページにある
一体なんだろう、と最初は思うかもしれませんが、そういう問題が半分ぐらいあります。半分ぐらいの問題はテキストの全体から聞いてくる、それが不動産登記法ということなんです。
不動産登記法というのももちろん分野ごとにはなっております。
例えば所有権の登記、抵当権の登記、根抵当権の登記とかいう形で分野ごとにはなってるんですけど、その分野ごとに聞いてくるとは限らない。半分ぐらいは分野ごとに聞いてくるんですけれども、残り半分は、その所有権、抵当権、根抵当権とかを横で串刺しにする。
例えば登記識別情報の通知と、そういうテーマで所有権、抵当権、根抵当権から聞いてくる、そういう問題が半分ぐらいあるんですね。つまり「全体を見ていかないといけない」、それが不動産登記法です。
なので最初のうちはかなりきついです。民法のようにこの分野を学習すればその分野の問題解けるわけではないので、不動産登記法は全部学習して初めて解けるようになる問題、それが結構ありますので、その点がきついということです。
なので独学の場合も、過去問は早期から「範囲限定のミニセット」で段階的に着手するのがおすすめです。最初は学習済みテーマだけを小刻みに解き、1回目はテキストへ即時に戻って根拠確認、2回目で理由づけ・周辺知識を結び付け、3回目で逆パターンを想定する「3回法」を回します。
全体像が見えてきた段階で横断テーマ(登記識別情報・添付書面・共同/単独申請など)のセットに広げ、最終的に通し年度演習へ。こうした早期×反復のほうが、不動産登記法の“全体横断”という特性に合致し、定着が速くなります。
不動産登記法を得意にするための五つの方法
ここからは、先ほどの原因ごとに対処法を説明していきたいと思います。
原因①:馴染みがないへの対処法
この「馴染みがない」への対処法は2つあり、一つ目が「不動産に興味を持つこと」、二つ目が「正直不動産」。
では1つ1つ見ていきましょう。
不動産に興味を持つ
「不動産登記」からちょっと広げて「不動産」関係に持っていただけると良いですね。試験に出ないことでも少し調べたりとかYouTube動画で見てみると、不動産全体に興味が出てくるきっかけにもなると思います。
例えば、住宅ローンには変動金利と固定金利があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。どちらが有利かは、経済状況や金利動向によって異なるとされています。シミュレーションを通して違いを体感してみるのも良いでしょう。また、不動産関連の税制は変更点が多いとされます。
何が変わってくるかっていうと、いつ売却するかとか、転売利益がどれぐらい出てるか、あと減価償却とかそういうのも絡んできます。もちろん減価償却とかそんなの試験出ないんですけれども、不動産関係では非常に重要になってきます。
それを知識として覚えようとするよりは、先ほどの変動金利と固定金利の違い、それを知って興味を持つとか、家を買う場合、今金利ちょっとずつ上がってきているので借り換えした方がいいのかとか、そういうことで興味を持っていただく。
あと税金関係もいつ売却したら幾らの税金かかるのかとか、減価償却って何なのかとかいうこと、少し興味を持ってYouTubeの動画とか見てみる。それをしていくと不動産関係に興味が出てきますし、不動産登記というのは不動産とは切り離せない関係ですので、自然と不動産登記に繋がってくるかなと思います。
学習したことある人はご存知だと思うんですけれども、敷地権付き区分建物のところで、「敷地権」が「賃借権」あるいは「地上権」だったらどうかとか、ちょっと難しい問題があります。
これテキストだけで勉強してると敷地権、賃借権、地上権って言われても全然イメージ湧かないんですけれども、タワーマンションの敷地権は一般に所有権が多いとされますが、賃借権や地上権の事例もあります。
例えば東京の大崎とかあと渋谷とかでも少しあったかなというふうに記憶してるんですけれども、タワーマンション、これが地上権、賃借権ということは、購入した人は土地の所有権持ってないということなんですね。
土地の所有権は地主が持っている、それをみんなで借りてその上にタワーマンションを持っているということなんです。地上権、賃借権ですから期間がありますよね。マンションとかだと長くて50年とか100年とかだったりするんですけれども、その期間が経過すると原則として地上権とか賃借権は消滅する。じゃあ、マンションどうするのって問題になるんですね。
地上権、賃借権の上に立ってるマンションは100年後どうするかとか、そういう問題に直面するんだな、なので敷地権が賃借権、地上権のマンション購入する時は考えないといけないな、など想像上でも色々考えさせられ、それが知識となっていきます。
もちろんタワーマンション購入するって人はほとんどいないとは思うんですけれども、こうしてちょっとイメージしていくと、理解もどんどん進みますね。
『正直不動産』
二つ目が正直不動産。
知ってる方も多いと思いますが、漫画であり、ドラマ化もされてます。不動産に関する知識がつく漫画でして、例えば「地役権」とか「共有物分割」とか、そういう一般的にはちょっとマニアックな話も結構出てきます。
これらは司法書士の試験的にはとても大事な部分。両方ともAランクです。でもなかなか普通に生活してると出てこないですが、漫画では、とても分かりやすく説明されてます。漫画らしく大体は揉め事が起こって主人公が解決していく、という流れですが、そうした中で見ていくと頭の中にすんなり入ってきたりします。
ドラマ化もされ、主要な配信サービス等で視聴できます。よかったら勉強の合間、息抜きに見ていただければと思います。これを見ると、不動産に関するイメージがすごく付くと思います。
テキストでちょっと無味乾燥とした地役権とか共有物分割、これらが俄然、具体的なイメージとして頭に入ってくることになりますね。
原因②:全体で一つの分野への対処法
二つ目の原因、「全体で一つの分野である」ことへの対処法は、これから説明する三点です。
共通の大原則(全体を貫くルール)を押さえる
この共通の大原則(全体を貫くルール)を最初に押さえるということです。この知識は、多くの資格予備校の基本講座で、講師が特に重要だと指示する箇所や、市販の基本書で太字や色文字になっている部分に該当すると考えてください。
不動産登記法は、個別分野の知識だけでなく「全体を通した共通ルール」で解かせる問題が多いため、この「全体を貫く基本的なルール」を知っていることが非常に重要になります。その全体を見渡せるのがこの共通の大原則ということになります。
例えば「登記識別情報の通知」は二つの基準があります、これを満たした場合だけ通知されるというのが共通の大原則で示されているということなんです。登記識別情報の通知で言うと「申請人自ら」か「登記名義となる」、この二つなんですけどね。
申請人自らと登記名義となる、この二つを満たした場合だけ通知される、これが全体で使えるんです。所有権だけじゃなくて抵当権とか根抵当権でも登記識別情報の通知の要件は同じということです。
こういう共通の大原則を全体に渡って使えるのが不動産登記法なので、是非これを真っ先に最初に押さえてください。
申請例を記憶する
二つ目が申請例を記憶すること。
申請例を早めに記憶してください。この共通の大原則とこの申請例のお話なんですけれども、要はテキストの中でいきなり全部同じレベルで記憶しようとしないということです。
もちろん一通り記憶しようとして読んで欲しいんですけど、全て同じように記憶しようとすると、結局一部しか身につかない、全部記憶するというのは人間無理ですからね。
最初、特に強めに、特に重視して記憶していただきたいのがさっきの一番の「共通の大原則」と、そしてこの二つ目の「申請例」ということです。
なんで申請例を記憶するかって言うと、不動産登記って申請例が元になってます。申請例から色々始まっていくんですね。申請例のここの部分がこう変わったらどうなりますかとか聞いてきます。記述はもちろん申請例を答えで書かないといけないんですけど、記述だけではなく択一もそうです。
申請例の記載をかなり聞いてくるので、申請例は非常に重要ということになります。申請例が元になってくるので、これは早めに意識して記憶していただきたいということになります。
早く二、三回回す
不動産登記法は「全体で一つの分野」と言われるくらい、範囲のつながりが強い科目です。だからこそ、終わってから復習するより、最初から何度も回す方が力になります。
私が実践していたのは、いわゆる「三回回し」です。
一回目は、学んだ範囲の過去問をすぐに解いてみる段階です。分からなかった箇所はその場でテキストに戻って、条文や添付書面を確認します。
二回目は、なぜその答えになるのかを説明できるようにする段階です。たとえば、共同申請か単独申請か、登記識別情報は通知されるか、など共通ルールを意識して整理します。
三回目は、問題を逆にして考えてみます。たとえば登記名義人を入れ替えたらどうなるか、もし記述式で聞かれたらどんな申請書や添付書面を書くか──そんなふうに手を動かすイメージで確認します。
最初は「所有権」「抵当権」「根抵当権」などテーマごとに区切って回し、慣れてきたら「登記識別情報」や「添付書面」など横断テーマにも広げていくと、全体の流れがつかみやすくなります。
記述式と択一式を行き来しながら、「記述で出た論点を択一でも思い出す」「択一の肢を記述でどう書くか考える」といった使い方をすると理解が深まります。
夜に用語を軽く暗記して、翌朝にもう一度思い出す──そんなリズムを続けると、記憶が安定して全体像も早く見えてきます。
このように、早く・繰り返し・つなげて学ぶことが、不動産登記法を得意科目に変えるコツです。
まとめ
- 苦手な原因は「馴染みのなさ」と「全体横断的な出題」の二点である。
- 用語の馴染みのなさは、不動産全般に興味を持つこと(住宅ローンや税金、正直不動産など)で解消すべし。
- 全体横断的な出題に対応するため、まず「共通の大原則(全体を貫くルール)」と「申請例」を優先的に記憶すべし。
- 全体像を掴むため、多少雑でも構わないので、早めに二~三回テキストを回す「追っかけ復習」を実行すべし。
では、これらのポイントが、不動産登記法を得意科目へと変える一助となれば幸いです。
※本記事は、司法書士としての受験・実務経験に基づく一般的な学習アドバイスをまとめたものであり、特定の受験方法や結果を保証するものではありません。


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