今回は、現役の司法書士としての経験を踏まえ、司法書士試験の本当の難易度というテーマでお話しします。これから司法書士試験を目指そうと考えている方、すでに受験されている方など、多くの方に役立つ情報です。
司法書士として受験・実務の両方を経験した立場から、この試験がどれほど難しいのかを具体的に掘り下げて解説していきます。
合格率の数字だけを見て不安を感じる方も多いと思いますが、その数字の背景を冷静に理解することで、学習の方向性を明確にできると思います。
司法書士試験の基本データと「合格率5.3%」の真実
司法書士試験の基本データ
司法書士試験の合格率は、直近の令和6年度の試験では5.3%でした。合格率は、過去数年5%前後で推移しています(出典:法務省 令和6年度試験結果)。これは、受験者が減る一方で、合格者数がおおむね一定で推移するため、受験者の減少局面では合格率が相対的に高く見える面があります。
合格率という数字は上がっていても、決して受かりやすくなっているわけではないという点にご注意ください。
私が受験を考えた当時は合格率が3%くらいで、その数字を見たときは正直「これは厳しいだろう」と驚愕しました。法律を学んだことのない方、資格試験の経験がない方にとって、この低い合格率は大きなプレッシャーになると思います。
受験者の内訳
最新の令和6年度の確定データをあらためて見てみましょう。
- 出願者:約16,837人
- 受験者:13,960人(実際に試験を受けた人数)
- 合格者:737人(最終的に合格した人数)
出願した人数から受験者数がかなり減っていることからもわかるように、本試験の会場にたどり着く前の段階で、さまざまな理由で勉強を続けられなくなってしまう方が一定数いるという現実があります。
そして、実際に受験した約13,960人のうち合格するのは737人。つまり5.3%。この数字だけをパッと見ると、「100人中5人しか受からない、非常に厳しい試験」という印象を持つかもしれません。
100人に5人の「本当の意味」
しかし見方を変えれば「100人に5人も受かる試験」とも言えます。この数字が示すほど、実際は厳しいわけではありません。なぜなら、受験者100人全員が本気で合格を目指しているわけではないからです。
例えば、小学校や中学校のマラソン大会を思い出してください。全員が走るけれど、本気で上位を目指して練習し、必死に走っている生徒はごく少数ですよね。試験も同じです。
これまで受験仲間や講師の方々と情報交換してきた実感としても、実際に“本気で戦える状態”で挑むのは全体の10〜20%程度にとどまる印象です。つまり合格者737人は、実質的にはこの本気の層の中の勝負で生まれているということです。
この数字に振り回される必要はありません。目の前のことを一生懸命やって実力が上がってくれば、この合格を勝ち取ることは、決して特別な才能や非凡な何かが必要な「偉業」ではありません。
努力を積み重ねれば、多くの人に合格の可能性は十分あります。特別な才能がないと受からない、ということではありません。
司法書士試験を乗り越えるための3つの壁
司法書士試験には、いくつか大きな「壁」と呼べる段階があります。その中でも特に意識すべき3つのステップについて触れていきます。
第一の壁:全科目の「一周」を終えること
まずは、どの勉強法を取るにしても避けて通れないのが、全11科目を最初から最後まで一通り終わらせるという壁です。体系的に一周しきる、ということが最初の大きなハードルになります。
民法から入り、最後の科目まで──理解がどれほど深かったかは一旦置いておいて、テキストを読み、過去問を一通り解き、講義もひと回しする。いわゆる「とりあえずの一周」をやり切るだけでも、相当な時間とエネルギーを要するものです。
そして実際のところ、多くの受験生は、この「一周」を終える前にペースが崩れてしまうんですよね。だからこそ、ここを完了できた時点で、あなたはすでに多くの受験生より一歩も二歩も先に進んでいる、本気の層に足を踏み入れていると言えます。
まずはこの段階を終えたこと自体に、しっかりと自信を持ってほしいところです。
第二の壁:択一式の「基準点」を突破する
次に立ちはだかるのが、択一式試験の基準点をクリアするという壁です。
司法書士試験では、マークシートで解く「択一式」と、実際に答案を書く「記述式」の2つがありますが、このうち択一式には“基準点”と呼ばれるラインが設定されています。この基準点に届かなければ、記述式をどれだけ頑張って書いていても採点すらしてもらえません。
この基準点を超える受験生は、毎年多少変動はありますが、「おおよそ受験者13,960人のうち約2,000人ほど(年度により変動する目安)。つまり、ここに到達した時点で、すでに全体の中でもかなり上位に位置していることになります。
基準点を突破したなら、「あ、自分はしっかり戦えるところまで来ているんだ」と、まずはそのことに自信を持ってほしいと思います。
第三の壁:基準点から「合格点」へ到達する
基準点を突破した2,000人の中でも、最終的な合格者(合格点に達した人)は約737人です。
合格するためには、基準点からさらにプラスアルファの点数を積み重ねていかなければなりません。この基準点から合格点へのわずかな点数を上げるのが、また非常に大変な壁となります。
合格点付近では、合格者と不合格者の点差がわずか0.5点や1点の間に何十人という受験生がひしめき合っているのが現状です。
この基準点からさらに点数を上げていく大変さは、このレベルまで行った人でないと分からない部分もありますが、中には難なくクリアしてしまう人もいます。
合格するための「素質」と心構え
では、この最終的な737人の合格者に入るための「素質」とは何でしょうか。
合格の素質はすでに持っている
広く言えば、司法書士試験を目指した時点で、すでに一定の素質を備えていると感じます。実際に私自身もそうでした。なぜなら、普通の人はこの5.3%という合格率を見た時点で「やろう」とは思わないからです。
法律をかじったことのない人が、この難易度の試験に興味を持ち、テキストを買って勉強を始めたというその時点で、すでに受かる素質を持っていると私は考えます。
さらに、なんとか一周を回し終えた人は、もうかなり受かる素質があり、基準点まで行けた人は、もはや合格に手が届く位置にいます。微々たる点数の問題になっているわけです。
最も大切な心構え:「他人と比較しない」
自分には特別な才能がないのではないか、周りがすごい点数を取っているから無理かな、と不安に思うこともあるでしょう。今の時代はSNSなどで他人の勉強スタイルが簡単に見えてしまい、他者と比べやすくなってしまいました。
他人の勉強スタイルを見て劣等感を抱いてしまうと、モチベーションを維持するのが難しくなります。
最も大事なのは他人と比較しないことです。
この試験は相対試験(競争)ですが、必要以上に他人を意識するよりも、自分の得点分析に集中した方が成果につながります。点数を取るということだけに集中してください。
そして、自分を責めるのはやめましょう。自分を責めてもプラスになることはありません。
景色が変わる時を信じて走り続ける
大事なのは、自信がなくても前に進むこと。いつか景色が変わる時が来ると信じ込んでいることが重要です。一見暗い道を走っているように見えても、必ずその先には光が見える時が来ます。希望の光を絶対に見失わないでください。
司法書士試験は難しく感じることもありますが、地道に努力を重ねていけば、着実に力をつけていける試験です。特別な才能は必須ではありません。努力する才能がないと感じていても、これから意識していけば養っていけるものです。
この5.3%という数字の壁も、正しい努力を続ければ必ずしも越えられないものではありません。焦らず、自分のペースで進んでいきましょう。
まとめ
- 合格率5%は、受験者の減少によるもので、決して難易度が下がったわけではない。
- 受験者全員が同じ熱量で挑むわけではないため、実質的な競争は10〜20%ほどの“本気の層”で行われがちだと考えられる。
- 合格までの3つの壁は、「全科目一周」「択一基準点突破」「合格点到達」である。
- 司法書士試験を目指した時点で、すでに合格の素質は持っている。
- 合格への最大の秘訣は、他人と比較しないこと。自信がなくても前に進み続ければ、必ず景色が変わる時が来る。
司法書士試験は合格率という点から見れば非常に難関に見えますが、本気で挑戦する受験生は全体の何割、といった感じかと思います。
不安になることもあると思いますが、私自身の経験からも、焦らず知識を積み重ねていくことが合格への一歩だと感じます。


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