伝説の魔獣フェルを従え、国境を越えようとするムコーダ。しかし、その圧倒的な存在感は、平穏を望む彼にとって「過ぎた力」であり、トラブルの種でしかありません。
第3話で描かれる「周囲との摩擦」を避けるための「力のハンドリング」は、組織の中で生きる大人にとっても、身につまされるテーマだと思います。
関連:第2話はこちら)
第2話|規格外の「力」に戸惑う私。52歳が振り返る人生を変えたツールと自立の形
おだてられて木に登らないための「理性」というブレーキ
ムコーダはフェルに対し、「威圧感を抑えろ」と厳命します。これは、自分の持つ力が周囲にどう映るかを客観視できているからこその判断です。
翻って自分自身のことを考えてみます。実を言うと私は「おだてられたら木に登る」という言葉がぴったりの性格です。人からスキルや実績を褒められると、つい嬉しくなって調子に乗ってしまう… そんな青臭い一面が今、この歳になってもどこかにあります。
でもその「高揚感」のままに振る舞えば、周囲からは自慢げに見え、不要な反発や嫉妬を招くことになりかねません。だからこそ、年齢を重ねるごとに私は「口を開く前に一度考える」という習慣を意識的に身につけてきました。
特に会社という組織においては、感情に流されず、常に理性的な「正論」をベースに話をするよう努めてきました。その結果、周囲からは「冷静すぎる」「少し冷たい」といった印象を持たれることもあったようです。
でもそれは決して冷淡さゆえではなく、自分の未熟な「おだてに乗りやすい性質」にブレーキをかけ、プロとして中立を保つための、私なりの防衛策だったのです。
昇進という「キャパシティオーバー」の資源に抗う
ムコーダはフェルが狩ってきた山のような高級獲物を見て、喜ぶどころか「自分には扱いきれないリスクだ」と困惑します。これと同じような、想定外の「大きな資源(権限)」に対する戸惑いを、私は自分の昇進の時に経験しました。
メーカーに勤めていた頃、「室長」という役職への打診がありました。一般的な会社で言えば、課長と部長の中間くらいのポジションです。上司は「早く上に行け」と背中を押してくれましたが、当時の私は猛烈にそれを拒みました。
「自分はそんなガラではないし、もっと現場の近くで技術に触れていたい」
そうした思いが強すぎて、随分と長く昇進を辞退し続けました。周囲に相談しても「チャンスなのだから早く受けるべきだ」というアドバイスが大半でしたが、私には、その新しい権限が「自分の本質を損なう、手に余るもの」のように思えてならなかったのです。
結局は多くの人の話を聞くうちに「それも一つの道か」と受け入れることになりましたが、あの時の「自分に扱いきれるか?」という冷静な自問自答は、今でも間違っていなかったと感じています。
大きな力やチャンスが舞い込んだ時、手放しで喜ぶのではなく、まず自分の器と照らし合わせる。それは、エンジニアとして「システムの最大負荷」を見極める感覚に似ているのかもしれません。
専門家(ギルド)への信頼と「依存しない」距離感
自分では効率の悪い魔物の解体を、ムコーダはギルドの専門家に任せます。これは「限られた時間」と「リソース」を最大化するための、正しいアウトソーシングの形です。
仕事において、相手が信頼に足るプロかどうかを見極めるのは非常に難しいもの。結局のところ、返ってくる「アウトプット」で判断するしかありません。でも私が真のプロだと感じる人たちには共通点があります。それは、自分の役割に誇りを持ち、「その役割を全うするのが当たり前だ」という姿勢で仕事に向き合っていることです。
幸いにも、これまでのキャリアで何人かのそうしたプロフェッショナルに出会うことができました。彼らと良好な関係を築くために、私が最も大切にしているのは「依存しないこと」です。
プロ同士の仕事は、どちらかが甘える関係であってはなりません。自分は自分の役割を完璧に果たし、相手もその道のプロとして役割を果たす。そうして仕上がった各々の成果をぶつけ合う瞬間にこそ、最高のものが生まれます。
依存し合わない自立した関係だからこそ、そこに健全な緊張感と深い充実感が宿るのです。
「牙を隠す」ことが、平穏を守る知恵になる
伝説の魔獣フェルであっても、街に入る時はその威圧感を消さなければなりません。私たちも、どんなに高いスキルや経験を持っていたとしても、それを振りかざすのではなく、環境に合わせて「牙を隠す」謙虚さが必要な場面があります。
それは決して自分を偽ることではなく、周囲との調和を図り、結果として自分のやりたいことをスムーズに進めるための、大人の「生存戦略」なのです。
ムコーダがフェルという巨大な力に振り回されながらも、なんとか自分らしい旅を続けようとする姿。そこには、組織や人脈という「自分より大きなもの」の中で生きる私たちが学ぶべき、しなやかな強さが隠されている気がしてなりません。
第3話のまとめ
過ぎた力を持ったことで、ムコーダの周囲は騒がしくなりました。でも彼は自分の限界を知り、プロの力を借りることで、少しずつその状況をコントロールし始めています。
次回は、いよいよ物語に「女神」という新たな理不尽(笑)が介入してきます。
神という究極の権力者に対し、ムコーダはどう立ち回るのか。私の「上司や権力との向き合い方」の経験を交えて語ってみたいと思います。


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