無理な仕事を乗り越えるには?大きな課題を分解した現場経験

30年以上エンジニアをしてきましたが、「これ、本当に期限までに終わるのか」と、画面を見たまま手が止まったことは一度や二度ではありません。納期は動かせない。それなのに、仕様は固まっておらず、確認する相手も多い。考えるほど、終わる気がしなくなります。

そんなとき、気合いやモチベーションだけに頼ってもうまくいきませんでした。私が現場で繰り返してきたのは、大きすぎる仕事を、手を付けられる大きさまで分けることです。

『はじめの一歩』第2話で、一歩が落ちてくる木の葉をつかむ課題へ何度も挑む姿を見たとき、派手な才能より、一回ずつ手を動かせる形にすることが大事なのだと改めて思いました。

この記事では、数千人が利用するシステム更新で途方に暮れた経験をもとに、無理に見える仕事をどう分け、どこから手を付ければよいのかをお話しします。

無理な仕事ほど全体を見すぎない

大きな仕事を前にすると、どうしても完成形ばかりを見てしまいます。

システム更新なら、正常に稼働している最終状態。資料作成なら、すべての説明がそろった完成版。そこまでの距離を一度に考えると、「とても無理だ」と思ってしまうのも当然です。

私も数千人が利用するシステムの更新を担当したとき、最初は全体の大きさに圧倒されました。

ログイン機能、データ連携、バックアップ、権限設定、移行作業、動作確認。関係する機能を書き出すだけでも、次々と課題が出てきます。

しかも、ひとつの変更が別の機能へ影響する可能性もあり、何かを修正するたびに、「ここまで確認しなければいけないのか」と気が遠くなりました。

正直、最初のうちは計画表を見るのも嫌でした。
やるべきことが減るどころか、確認するほど増えていくからです。

そこで、いったん「システム更新を終わらせる」という大きな目標から離れることにしました。

今日中に確認するのは、ログイン機能だけ。
次に、データが正しく受け渡されるかを見る。バックアップは、保存するところと復旧できるところを別々に確かめる。

全体ではなく、今の自分が終わらせられる範囲へ切り替えました。

無理に見える仕事は、能力が足りないのではなく、一度に見ている範囲が大きすぎることがあります。

大きな課題を小さく分けて進めた

仕事を分けるといっても、
単に作業項目を細かく並べればよいわけではありません。

あまり細かくしすぎると、今度は項目を管理するだけで疲れてしまいます。私も最初は、確認事項を細かく書きすぎて、一覧表を更新すること自体が仕事のようになったことがありました。

それでは意味がありません。

私が意識したのは、「一つ終わったと判断できる大きさ」に分けることでした。

機能ごとに完了条件を決めた

システム更新では、まず機能ごとに分けました。

  • ログインできる
  • 必要なデータが連携される
  • 障害時にバックアップから戻せる
  • 利用者ごとの権限が正しく反映される

ここで大事だったのは、
「作業したか」ではなく、「完了したと判断できるか」です。

たとえば、ログイン画面を修正しただけでは終わりではありません。正しい情報で入れること、間違った情報なら拒否されること、一定回数失敗した場合の動きまで確認して、ようやく完了です。

この条件を先に決めておくと、
どこまで進めれば一区切りなのかが見えるようになりました。

それまでは一日中作業しても、「まだ何も終わっていない」と思うことがありました。しかし、一つの機能を完了にできると、少なくとも今日はここまで進んだと言えます。

この小さな手応えは、思っていた以上に大きいものでした。

不安な箇所から先に確認した

もう一つ意識したのは、
簡単な作業からではなく、不安の大きい箇所から確認することです。

つい、すぐ終わりそうな項目から片づけたくなります。項目に完了の印が付くと、進んでいる気がするからです。

ただ、難しい問題を最後まで残すと、
「あれがまだ残っている」という不安がずっと消えません。

特に、外部システムとのデータ連携や、障害時の復旧確認は、思い通りにいかない可能性が高い部分でした。そこで、準備が整ったものから早めに確認し、問題があれば修正する時間を確保しました。

案の定、データの形式が一部合わず、
想定していた通りには動きませんでした。

その瞬間は、やはり冷や汗が出ます。
でも、早い段階で見つかったため、関係者へ確認し、修正方法を考える時間がありました。

簡単な仕事を終わらせるだけでは、全体の不安は減りません。私は、失敗したときに影響が大きいところから手を付けたほうが、後半は落ち着いて進められるようになるかと思います。

小さな完了がチームの不安を減らした

大きな仕事で不安になるのは、自分だけではありません。

担当者は、自分の作業が間に合うか不安になります。リーダーは、全体の進み具合が見えず焦ります。関係部署は、本当に予定通り使えるようになるのか心配しています。

私が担当したシステム更新でも、初めのころは進捗を聞かれるたびに困りました。

「まだ確認中です」
「いくつか問題があります」
「全体としては進めています」

これでは、聞いた側も安心できません。
私自身も、説明していて何がどこまで終わっているのか分からなくなっていました。

そこで、報告の仕方も変えました。

全体が何%進んだかではなく、
ログイン機能は完了、データ連携は修正中、バックアップは試験待ち、というように伝えるようにしたのです。

すると、チーム内の会話が具体的になりました。

「データ連携には、あと何が必要なのか」
「バックアップ試験は誰が確認するのか」
「権限設定は予定通り始められるのか」

ぼんやりした不安が、確認できる課題へ変わっていきました。

今思うと、大きな仕事を分けることは、作業を進めるためだけではありません。周囲へ状況を伝え、必要な助けを得るためにも役立っていました。

仕事を小さく分けると、進捗だけでなく、困っている場所も見えるようになります。

分けても解決しない仕事は相談する

仕事を分解すれば、何でも解決できるわけではありません。

細かくしても終わらない仕事はあります。人数が明らかに足りない、期限が現実的ではない、仕様が何度も変わる。こうした問題は、担当者一人の工夫だけではどうにもなりません。

以前の私は、仕事を任された以上、
自分で何とかしなければならないと思いがちでした。

もう少し残業すれば間に合う。自分が頑張れば周囲へ迷惑をかけずに済む。そう考えて抱え込み、結果として判断が遅くなったこともあります。

ですが、作業を分けてみると、無理な理由も説明しやすくなります。

たとえば、

  • データ連携の確認に外部担当者の回答が必要
  • バックアップ試験には別の環境が必要
  • 権限設定の対象人数が想定より多い
  • 仕様変更により再試験が必要

このように整理できれば、
「間に合いません」と感覚で訴えるのではなく、どこに時間が必要なのかを示せます。相談する際も、ただ助けを求めるだけではなくなりました。

期限を延ばすのか、人を増やすのか、一部の機能を後へ回すのか。選択肢を出せるようになります。

無理な仕事へ向き合うことと、無理を黙って引き受けることは違います。

自分で工夫できる範囲は分解して進める。それでも越えられない部分は、早めに周囲へ伝える。この二つを分けて考えることが必要でした。

努力は我慢より進み方を考えること

『はじめの一歩』で、一歩は落ちてくる木の葉をつかむために、何度も手を動かします。

最初から思い通りにできるわけではありません。失敗しながら、自分の動きや距離を少しずつ確かめていきます。

仕事も同じだと思います。

無理だと感じる課題を、ただ長時間眺めていても前には進みません。気合いだけで一気に片づけようとすると、途中で疲れ切ってしまいます。

私が30年以上の現場で続けてきた努力は、
歯を食いしばり続けることだけではありませんでした。

まず、何が終われば前進と言えるのかを決める。
難しい箇所を早めに確認する。
一つ終わったら、次の一つへ進む。
無理な理由が見えたら、抱え込まずに相談する。

振り返ると、この繰り返しだった気がします。

もちろん、計画通りにいかないこともあります。分けてみたら、思っていたより作業が増えることもあります。

そんなときは、また分け方を変えればよいのです。

一度立てた計画を守ることより、今の状況に合わせて進み方を考え直す。そのほうが、現場ではずっと役に立ちました。

まとめ|無理な仕事は最初の一歩を小さくする

無理に見える仕事を前にすると、完成までの距離ばかりが気になります。

しかし、全体を一気に終わらせる必要はありません。まずは、今日確認できること、ひと区切り付けられる機能、失敗したときに影響が大きい部分から手を付けます。

私が大規模なシステム更新で行ったのも、特別な方法ではありませんでした。仕事を機能ごとに分け、完了条件を決め、不安な部分を早めに確認した。それだけです。

それでも、一つずつ完了が増えると、終わりの見えなかった仕事に道筋ができました。チームも、何に困っているのかを共有しやすくなります。

そして、分けても越えられない問題は、無理に一人で抱えないことです。

無理な仕事を乗り越える第一歩は、もっと頑張ろうと力を入れることではなく、今の自分が終わらせられる大きさまで小さくすることなのだと思います。

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