トラブル多発の現場で必要な『論理と備え』|Dr.STONE第6話にみた現場の守り方

『Dr.STONE』第6話で千空が復活した際、彼が3700年間もの間、ただ秒数を数え続けていたというエピソードには戦慄しました。

絶望的な暗闇の中でも感情に流されず、事実と論理を信じ抜く。その冷静さこそが、彼の強さの根源であり、それがあってこそ仲間を守れるというものです。

翻って、私たちの現場はどうでしょうか。 期限直前に降ってくる理不尽な要求、AI開発の迷宮入り、あるいは組織変更によるチームの解体。こうした不条理な出来事が起きたとき、私たちはどうしても感情的に反応してしまいがちです。

ここでは、私がこれまで直面してきた、仕様書をめぐる怒号の現場やAI開発の泥沼体験を振り返ります。そこでどう判断し、どのような「守り方」を実践してきたのか。私自身の失敗も含めた具体的な知見を綴ります。

感情論で吊るし上げようとする会議の空気を変えた一言

千空が3700年間、ただ冷静に秒数を数え続けたように、組織の危機において周囲が感情的になっているときほど、一歩引いた客観的な目線が重要になります。

私がまだ、新しい部署に異動して間もない頃の話です。ある新規機器の仕様担当に抜擢され、後輩と二人で期限ギリギリまで試行錯誤を繰り返し、数百ページに及ぶ仕様書を完成させました。

期限日の早朝、また皆が出社する直前にその仕様書を配布したのですが、次の日、ソフト開発チームの部長から「要求水準に達していない」と猛烈なクレームが入ったのです。

即座に会議が招集され、何部門かの部長クラスが集まりました。

クレームはソフト開発チームからだけでしたが、「どうしてくれるんだ」「こんな仕様書でできるわけがない」と、仕様担当である後輩に批判が集中しました。

私と言えば別部署から来たばかりの「第三者」という立ち位置にいたため、顔がまだ知られておらず、場に満ちる重苦しい怒りの空気の正体も、誰が何を問題視しているのかも、冷静に俯瞰することができました。

あまりの剣幕に、私は部長と周囲へ静かに問いかけました。

「この仕様の精度については、開発メンバーと事前に調整し、合意を得た上で作成・配布しています。今、具体的にどの部分が開発の要求から逸脱しているのでしょうか」

その発言をした瞬間、会議室が静まり返りました。

開発部門の部長も「え?」という反応を示し、感情で場を支配しようとする空気に対し、事前の合意という「事実」を静かに置いたことで、相手の勢いが一瞬で収まったのです。

多分ですが、開発部門内のコミュニケーションエラーというところなのでしょう。結局、その場での非難は空振りに終わり、プロジェクトはそのまま進行しました。

劇的な結末ではありませんが、怒号や非難が飛び交う場面ほど、感情を排した圧倒的な客観性こそが、自分とチームを守る防壁になります。職場の同調圧力に飲まれず、データと事実だけを突きつける姿勢が、結果的に物事を前に進めるのです。

AIプログラミングの迷宮で思い知る差し戻しの安心感

千空が危険な状態から戻ってこれたのは、石化の解け残りという「不測の事態への備え」があったからです。物語では偶然の産物だったようですが、こうした最悪の事態を想定しておくことの大切さは、現代のものづくりにもそのまま直結します。

最近、私はAIと対話しながら独自のWordPressプラグインを開発する機会が増えました。AIとの開発は驚くほどサクサクと進むため、ついGitでのコミットやソースコードの退避を怠り、突き進んでしまうことがあります。

しかし、どれほど優秀なAIであってもミスは避けられません。動作確認をしながら進めている中、想定通りでない場合、その誤りを正そうとAIに修正指示を出すわけですが、そうした修正が重ねるほど、文脈が肥大化してAI側が混乱し始めるのです。

あっちを直せばこっちが動かないという正に「もぐらたたき」状態に陥り、コード全体が崩壊していく恐怖。画面を前に、どこをどう触ればいいのか分からず冷や汗をかく瞬間は、今でも緊張が走ります。

AIに文句を言っても始まらない。

そんな時、「あ、さっきのバージョンまでなら確実に動いていた」とスナップショットを思い出す瞬間の安堵といったらありません。

迷宮の出口が見えないとき、私はAIに「今の修正は諦め、思い切って正常に動いていたコードまで差し戻そう」と判断を下します。

するとAIも「承知しました。正常に動作する段階から再構成しましょう」と即座に切り替えてくれます。

ここまでは確実に動いていた、という手前の「防波堤」があるからこそ、私たちは何度でもゼロからやり直す勇気を持てます。

最悪の事態を想定して仕込んでおくバックアップは、単なる保険ではありません。失敗を恐れずに挑戦するための「撤退ライン」であり、そこがあるからこそ思い切ったコード修正ができる、最強の機動力なのです。

会社合併の激変期に別部署へ異動した右腕との週1回のハブ

見事に復活を遂げた千空ですが、自分を狙う司の目を欺くため、最も信頼している大樹と杠の二人をあえて敵陣へと送り込みます。自身は一人きりでゼロから新しい拠点の立ち上げに向かい、彼らは離れ離れになりました。

お互いの役割を100%信頼しているからこそ成立する、大胆な組織の分散配置です。

これに似た「チームが引き裂かれる」という経験を、私は会社合併後の混乱期に味わいました。

当時、私の下には信頼しきっていた3人の部下がいました。一人はまだ伸び盛りのアイデアマン、残り二人は修羅場を何度もくぐり抜けてきた熟練のプロジェクトリーダーです。しかし組織の論理という不可抗力によって、そのうちの一人が別部署へと強制的に異動させられることになりました。

自分の右腕をもがれるような喪失感がありましたが、組織の決定を覆すことはできません。そこで私は、物理的な接点が消えても、彼らとの「回路」だけは絶対に遮断させまいと心に決めました。

私はすぐさま、異動したメンバーも交えた週1回のミーティングを立ち上げました。「会議」という堅苦しい場ではなく、あくまで合併後の荒波を共に乗り切るための「情報交換のハブ」です。

実際にやってみると、この場は予想以上に機能しました。新組織の不条理な動きや、どう立ち回ればプロジェクトを守れるかといった現場のリアルな知見が、部署の壁を越えて共有されたのです。

強いチームとは、単に同じ部屋で顔を突き合わせている人たちのことではありません。互いの目的が共有され、繋がろうとする意思がある限り、組織はどれほど引き裂かれても機能し続けます。

千空と大樹が遠く離れた場所で互いを信じて戦ったように、仕組みさえあれば、物理的な距離はむしろ、組織にとって新しい視点をもたらす機会になるのかもしれません。

まとめ|不条理な環境を生き抜くための論理と備え

激変する環境や予期せぬトラブルは、どんな現場でもつきものです。でも感情に流されない論理、最悪を想定した備え、そして物理的な距離を越える信頼があれば、組織の混乱も乗り越えて行けるものだと思います。

顔色や空気に左右されず、誰もが手順と事実に基づいて動けること。そんな風通しの良い繋がりを維持することこそが、エンジニアとして長く健やかに働くための秘訣になるでしょう。

ベランダに出てみると、夜の乾いた風が通り抜けていきました。遠くの通りを走る車の音がかすかに聞こえています。手元のパソコンを閉じ、少し冷めてしまったお茶を口に含みながら、明日また机に向かうための準備を静かに進めることにします。

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